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日々徒然と呟きますよ。

   

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『たゆまう糸を紡ぎ給う導』

SS『たゆまう糸を紡ぎ給う導』1~4をまとめました。
早く完結させます(笑)


とりあえず、以下リンクよりこれまでの1~4。



『たゆまう糸を紡ぎ給う導』



■■■





「失敬」

擦れ違う際に肩がぶつかったのか、体勢を崩した女性を気遣っては腰を屈める。
傍から見れば紳士的な行動の一部でしかないのだろうが、それを直視する女性は既に紳士以上の感情に戸惑っていた。
そして、それを彼の隣で傍観する晶は、ただ溜息で呆れてやるしかない。

「お怪我はありませんか?申し訳ない」
「い、いえ、大丈夫ですわ」
「それは良かった。今日は酷く混んでますのでお気をつけください」
「は、はい、ありがとうございます」

心配気に優しい笑み。
それを独り占めしているのだという、女性独特の我儘な心。
そして、その感情を自覚すれば――――酷く容易い。


「お前な、わざとかよ?」
「うん?何がだね?」
「さっきのあの女性、完全に持ってかれた表情だったじゃねぇか」
「いつもの事だがね」
「・・・あっそ。」

繁華街を離れて歩く二人は、互いに休日だからこその行動だろう。
仕事も北斗も離れた場所で、こうやって『普通』に会うのは珍しい。だが、その珍しさの中で互いの新たな一面を知る事もあるだろう。
それが、先程の一件だ。
いや、この男だけに想像など容易いのだが、目の前で見せられると寒気すら訪れるのは晶だからこそだろう。
「なまじ顔がいいのも得ばかりではなくてな。どうでもいい女性の心を奪ったとして、それは俺の責任ではなかろう」
「てめーの行動に問題あるんじゃねぇの?」
「紳士として普通の行動だった筈だがね」
「俺にはあんな顔も表情も見せねぇクセにな」
「・・・・ほぅ」
これは珍しい言葉を聞けた、とばかりに、晶の隣を歩く桐弥はどこか満足気だ。

「さて、着いたな。君に似合う服が見つかればいいがね」
「やっぱり行くのかよ?」
「私服を持ってないなど16歳として問題ある、と何度も悟らせた筈だがね」
「必要ねぇって何度も言っただろーが」
「肩書きを嫌うのならば、肩書き以外の容姿をもつ術も知りたまえ。ましてや君は、常日頃から狙われる身分なのだからな」
「既に顔が割れてんのに、意味があるのかよ」
「意味など成す必要はなかろう」
「あ?」
意味が分からない、と表情だけで訊ね返せば、桐弥は不敵に笑う。
先程見せつけられた優しい笑みでも気遣う表情でもなく、言うなれば――――挑戦的な笑みにも似た何かだ。
だが彼は答えを口にする事はなく、目の前の高級ブティックの扉を開けては晶の背を押した。

「どうせ金を払うのは俺だ、ここは素直に甘んじておきたまえ」

そういう問題ではない、と言い返そうとするのだが、それよりも先に店員が営業スマイルで駆け寄ってきたので渋々店内に溶け込んでいくのだった。



■■■



「ふむ、短いな」
「そうか?俺は動き易けりゃ何でもいいけどよ」

試着室から出てきた晶を見た感想がスカート丈に集中する感想も如何なものか、と問うとも面倒なのか、晶は淡々とした態度で反応している。
学園の制服とも、北斗から支給されている戦闘衣装とも違う、至ってカジュアルで上品な衣装だ。
尤も、晶に言わせれば『着飾る事の意味が理解できない』とでも豪語するのだろうが。

「可愛い君の姿を見れるのは俺だけの特権にしておきたいのだが」
「あ?」
「俺以外の男に君の生足を見られるのは気に喰わんな」
「またてめーはワケの分からん事を」

すぐ傍では『よく御似合いですよ、お客様』という店員の声も聞こえるが、桐弥は使い慣らされたマニュアルだとばかりに視界にも入れようとしない。

「つーかさ」
「うん?」
「最近のブティックってのは、靴から飾りから何から何まで用意してくれるのかよ?」
「いや、俺が予め用意させていたものだよ。この店は何度か利用しているのでね」
「ふーん、常連って奴か?」

だが、見渡せど女性用の衣服しか扱われていない事ぐらいは晶でも容易に知れた。
要するに、晶以外の女性ともここに訪れ着飾る定義を楽しんでいる、という事だろう。
しかし、晶がその手の知識や感情を知らないからこそ、桐弥は救われていると云える。
普通ならば、浮気相手とのデートに利用した場所に本命など連れては来れない筈だからだ。
だが、それを承知の上で堂々としている男なのだろう、彼は。例え晶と普通の恋愛関係にあったとしても、変化はないのかもしれない。

「そんで?何を企んでやがんだよ?」
「企むとは失敬な」
「俺にこんな恰好させる事の意図ぐらいあんじゃねぇの」
晶にその価値は分からないが、試着した衣服の値札には見た事もない程の0が続いている。
「言っただろう、肩書きの必要しない風貌ぐらいは用意するものだ、とな」
会話が進む間にも彼は懐の財布から一枚のカードを取り出し、清算を済ましてしまう。店員が幾つかの作業をこなしてから、彼がサインを済ませれば終了となる。
「はん、金持ちめ」
「使う時間がないだけだがね」
「俺以外の女にどれだけ貢いでやがるんだか」
「君が貢がせてくれないからだろう?」
「何を請求されるか分かったもんじゃねぇからな、お前の場合。何でも駆け引きや交渉の材料にしやがるじゃねぇか」
「全く。これでも、プライベートと仕事は切り分けているのだがね」
「はん、どーだか」

強引に拒絶した態度を見せたわけでもなく、晶は珍しくも桐弥からの貢物を頂戴する事にしたらしい。
嫌味こそあれど、断る理由を探すのも面倒になったのだろう。
一方桐弥はというと、至ってラフなスーツのように見えるも高級品のコーディネートが成されている。
確かに高級ブティックに出入りするに相応しい風貌だろう。

「もしかしてお前、自分と並ぶ服装を俺にさせたかったのかよ?」
「まさか。俺は着飾っているつもりはないがね?」

皺一つ指紋一つ許されないような高級品の価値などさっぱり分からないにせよ、それでも伝わってくるものは確かだ。
しかし素直に訊ねれば簡単に否定されるし、彼と云う人物を知っているからこそ、それは方便でも嘘でもなく真実で間違いないだろう。

「さて、これで誰も君を北斗正統後継者とは思うまい?」
「知り合いに見つかった時の言い訳が大変だと思うけどな」

佳由は盲目だからいいとして、紗帆や菜帆、それから蒼史郎や館の同居人にこの恰好を見られた時にどう説明すればいいのか――――今を楽しむよりもそちらの頭痛に襲われる晶だった。




■ ■ ■





「・・歩きにくい」

不満そうに文句を並べているのは晶で、しかし隣を歩く男は愉快そうに笑う。
場所はいつの間にか繁華街や高級ショップ街を離れ、人寂しい一角を並んで歩いている。
周りの景色も変わってきており、イルミネーションでも施せばロマンティックな演出を期待できそうな樹木のアーチをくぐる。このままもう少し歩けば、大きな公園に合流するだろう。

「そういった靴は初めてかね?よく似合っているが」
「そういう問題じゃねぇよ。こんな靴で戦闘に対応できねぇだろ」
標準価値からして相変わらずの晶だ。
「第一、排水溝とかでつまづきそうだし」

くるりと踵をあげる仕草をしてやれば、どうにもその違和感がご不満らしい。
律儀なウーマンが履くようなヒールではなかれど、カジュアル重視の膝までのブーツだ。しかし、その踵を無理矢理持ち上げたような尖った先端が気に入らないようだ。

「俺との背丈の差は幾分か縮まったがね」
「だーかーらー!」
「ああ、失敬。それが目的ではないがね」
「今日お前に付き合ってるのだってな、俺は市井の見回りだって聞いたから来たんだぞ!?」
「経済状態を把握し観察するのも充分見回りに値するのだがね」
「お前の行動は、ただのショッピングにしか見えねーんだよっ!」
「まぁ、それも正解だろうな」

何を言ってもこの調子だ。
文句を言えば否定するでもなし、不満を並べ立てても正面から悟らされるでもない。
水のようにかわしたかと思いきや、己の行動を全て認めているのだ。
何が言いたいのか、何がしたいというのか。

晶に理解できたはずもない。

「・・・もういい、疲れた」
「休憩でもするかね?」
「そういう意味じゃねぇよ。分かって言ってるだろ」
「まぁね」
「そういうのが疲れてるって言ってんのも、分かってんだろ」
「ふむ、正面から認めるのもどうかと思うが」
「計画犯め・・・!!」
「せめて知略と讃えてほしいものだが」
「だ――――ッ!!もう黙れッ!!」
「君がキスしてくれたら」
「誰がするかぁっ!!空気を読めっ!」
「それは寂しい事を言ってくれる」

息切れ混じりの晶の肩を軽く倒せば、背後の大きな幹にぶつかる。
そしてそれを逃がすでもなく、桐弥の両腕が晶を囲んだ。

「・・・だろう?翼の君」

しまった、と自覚するには遅すぎた展開。
己を戒めてみても、後悔だけが先立つ。

いつもの事だ。
慣れすぎて追いつかなかったのだ。

それとも、それすら利用してくれたとでもいうのか。

「ちょ、桐――――」

顎を軽く持ち上げられ、その先によく見知った男の表情が映り込む。
避けようと思えばそうできる筈だというのに、何故か視線を逸らせない。
幹に食い込ませた自分の指先で拒絶する、という行動の選択すら選択肢に入り込まない。

赤い両目。
透き通るように綺麗な、その瞳の輝き。
吸い込まれそうになる程、透明感を熟している。

いつも見てきた、この両目。
いつも、そこには自分が映りこんでいる。

「キスをする時は瞳を閉じるものだが?」

俺は許可した覚えはない――――そう叫びたくとも、何故か反論できない威圧感。
いや、威圧感というのは正しくないだろう。
言葉を封じられた魔力にも似ている。
これが蒼史郎ならば、陰陽師の術だと判断できそうなものだが――――彼は、桐弥は言葉の魔力で人を束縛できるような魔術師ではない。それはどちらかといえば、陰陽師の役割だからだ。

「待、て・・って…」
「たまには独り占めしても良かろう?」

何を言っているのだろう――――そう表情だけで訊ねれば、それを察知したのか歯痒そうでいて微笑む表情が用意された。

至近距離のまま。
唇が触れるか触れないかの距離を保ったまま。

「稀代の天才魔術師と謳われる俺の唯一の弱点は君なのでな。弱点克服しようと心がけたつもりだが、無理だったらしい」
「なん、だよ…それ…傲慢、野郎…」
「君が可愛いのがいけないのだと、言っている」

そんな無茶苦茶な責任転嫁など、聞いた事がない。

この男は、どこまで傲慢なのだろうか。
この男は、どうしてこうも押し付ける真似ばかりするのだろうか。


「君も、俺に酔い浸りたまえ」
「…は、誰が…してやる、かよ…」

微かな呼吸のリズムですら、唇にかかる。
この煩わしい感覚が邪魔で仕方ない。

するならさっさとしろと。
さっさと終わらせろと。

しかし、男はそれを知っていて分かっていて、この距離を保っているのだろう。



未だに慣れる事のない、押し付けられる緊張感。

唇が触れ合うまで数ミリと云った所だろう。

だが、それすらも楽しんでいるかのように、男はじわりじわりと角度を変えては―――しかし決して触れようとはしない。

会話はなかった。
ただ、二人の僅かな間を通り抜けていく季節独特の風が迷い込んでくる程度にすぎない。

しかし晶は、それに苛立つよりも先に襲われる感覚にあった。
例えるならば、望んでいない生殺し感覚―――だろうか。
表現として正解ではないが、多分一番近い。

「翼の君」
「な、なん、だよ…ッ」

こんなにも至近距離ではさすがの晶も逸らしてしまうのだろう。
理解のできない動悸を自覚しながらも、口だけは尖ってみせた。
しかし男は、桐弥は、からかう笑みを見せるでもなく、ただ結論を述べる。

「キスするが?」



…『するが』??

なんだそれはッッ!!!
その後の言葉は何だ!!!


「キスする。キスしたい。キスしてみせよう」
「サ行三段活用のつもりかッッ!?」
「トリプル活用、という言語があれば、今の俺の心中に近いのだがね」
「桐弥ッ、お前なぁッッ!!」
「―――黙りたまえ」

そして、いつになく真剣に細く赤い瞳で制止させられていく。

瞼を伏せるように切なく赤い瞳。
時折、見せられるこの表情。
角度だと言えばそれまでだが。

晶の怒号に対し叫びで対応するのではなく、いつだってこのように静かすぎる声が晶を留めさせる。

呟くよりも低い声で。
囁くよりもはっきりした声で。


「…黙って、俺の事を考えたまえ」


そして、子供以上の要求をされる。

そんな事できる筈がないと知っている癖に、まるで妄想を要求するかのように提示だけしてみせる男。


「拒む気がないのなら、黙って俺に委ねておきたまえ」


そう、桐弥は晶に『拒む』事ができないのだと知っている。
それは好きだとか受け入れているだとかいう正当な理由ではなく、晶にその理由がないせいで生じている。
拒む事許されず、受け入れる事適わず――――そうういった生き方を続けている晶だからこそ、『理由』がないのだ。

それは晶にとっては今更であるし、桐弥にとっては理解した上での承知だろう。

だからこそ、いつもこの行為はキスという恋愛事を真似た行為は―――普段の追いかけっこと何ら変わりはなかった。

桐弥が一方的に表現する方法でしかない。
無言で堪えるだけの時間が僅かに増えるだけの晶でしかない。

「…黙ってやるけど、後で殴る」

そして、いつも口だけは喧嘩腰だ。
多少なりとも緊張に似た何かを味わっている今の表情と合致していない事に本人は気づいているのか。
それを教えてやらないのは、桐弥の傲慢なのか。

「するなら、さっさとしろ」
「それは、誘っているのかね?随分と萎えるセリフだが」

顎を引き上げ、至近距離に逸らせない視線の中で―――晶が何かを伝えようとする。
しかしそれは言葉に変換できないようで、多少悔しがっていた。
大方、この焦らされる感覚に距離に対しての文句だろう。

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